ファンパーク

増川隆洋の心の中に常にあるのは、「なるようになる」という精神。
大学時代の過酷な生活も、プロクラブへの加入が決まらず就職浪人した日々も、
プロ入り後にあらゆるポジションで起用されたことも、
すべて楽しみながら乗り越えてきた。

サッカーに捧げた大学4年時に初めて『プロ』を意識

 幼少の頃から近所の野や山で遊び回る活発な子供だった。缶蹴り、鬼ごっこ、メンコ…、キックベースボールに夢中になった時期もある。そんな毎日に『サッカー』が加わったのは小学3年生の時。地元のサッカーチーム、津田SCに入部した友達の練習を見学していた時に、「一緒にやるか?」と声を掛けられた。

「入部したとはいえ、最初は、ただやっているだけって感じでしたね。真面目だったので毎日の朝練は欠かさず参加していたけど、特に目標があるわけでもなく…。ただ、勉強よりはサッカーが好きでした。実際、小学生時代はしょっちゅう宿題を忘れていましたから。あれ?真面目じゃないか?(笑)」

 そんな彼がサッカーに本気になったのは小学6年生で出会った漫画『キャプテン翼』がきっかけだ。その主人公、大空翼のプレーを真似て一人、ボールを蹴る時間が増え、6年生の始めに35回しかできなかったリフティングは、卒業時には500回以上も数えるようになっていた。

「うまくなりたい一心で、ドッジボールをしていた学校の休み時間や、チームの練習以外の時間も、ひたすらボールを蹴るようになりました。基本的に何に対しても一度ハマると、のめり込むタイプでしたが、サッカーほどのめり込んだものは他にはないですね。…あ、唯一、ビックリマンチョコにはハマった!遠足で300円以内と定められたお菓子を全部、ビックリマンチョコにしたこともあります(笑)」

 もっとも、リフティングがうまくなっても、周りにはもっとできる選手がいたし、事実、「小学時代の僕を知っている仲間は、誰一人として僕がサッカーがうまいとは思っていなかった」とか。それでも、当時から体は大きく、足も速かったため、運動神経の良さには一目置かれていた。その証拠に足が速いからという理由で陸上部に駆り出され、大会に出場したことも。結果、100メートル走で兵庫県で9位になり、ぶっつけ本番で出場した幅跳びの大会では姫路市でいきなり6位になった。

「長距離走も含めて走力はあったけど、サッカーは至って普通のレベルでした。小6の時の文集には『サッカー選手になりたい』って書いていたらしいけど、友達が言っていただけで自分は全く覚えていないくらいですから。そこまで本気ではなかったんじゃないかな」

 飾磨西中学サッカー部でプレーするようになり、姫路市選抜に選ばれるようになっても、特に上昇志向は芽生えなかったそうだ。ただ、中学2年生時にJリーグが開幕したことは大きな刺激になったらしく、テレビで観るヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)の試合や緑のユニフォームを着たスター選手には心躍らせた。当時は部活動以外にも、週に1、2回は津田SCの社会人チームのナイター練習に参加していたらしいが、それも単にうまくなりたい一心から。ヴェルディに盛り上がっても、『プロ』を意識することはなかった。

 中学時代のチームメイトのうち、10人近くが一緒にプレーした姫路市立琴丘高校サッカー部では、他校から進学してきた播戸竜二(サガン鳥栖)らとともに、兵庫県下ではまずまずの成績を残したが、冷静に自分の実力を受け止めていた彼は「プロになるレベルにはない」と大学進学を決意。他の大学からの誘いもある中で、母親に女手ひとつで育てられ、兄からも「学費のかからない大学を目指せ」と言われていたことから、私学でも特待生として入学できる大阪商業大学を選択した。

「オカンに『下宿させてあげられる余裕はない』と言われていたので、最初の3年間は実家から通っていました。また当時はアルバイトが禁止だったんですが、深夜のコンビニで週4、5日はこっそり働いていて……。19時くらいに練習が終わり、2時間半掛けて家に戻り、さっとご飯を食べて22時から朝の6時までバイトに入り、少し寝てから学校に行くみたいな生活でした。でも大学生だから授業がない時間は昼寝もできたし、寝なくても大丈夫な年頃だったから体は全く疲れなかった。ただ4年生の1年間だけは『大学生活最後の年だし、悔いのないようサッカーにすべてを注ぎたい』とオカンに頼んで一人暮らしをさせてもらいましたけどね。その頃にはプロチームとの練習試合などを通して、『プロ』が全く手が届かないレベルじゃないと感じていたことで、プロを意識するようになっていたんだと思う」

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つづきは、オフィシャル月刊誌「ヴィッセルスマイル」Vol.16[OCT.2014]でお読みください。

ヴィッセルスマイル Vol.16[OCT.2014]
  • 「今月の男:増川隆洋」(増川隆洋選手特集)
  • 田代編集長のレンタルルーム IN THE ROOM〜タクの部屋
    (岩波拓也選手が高橋峻希選手をゲストに迎えた対談)
  • 森岡亮太 日本代表初選出特別企画「日本代表としての第一歩」
  • ヴィッセル神戸×神戸学院大学キャンパストーク(小川慶治朗)
  • HASSY's EYE(橋本英郎選手がプレーや戦術を解説)
  • あの人は今(第6回:ベガルタ仙台アンバサダー 平瀬智行氏) 

価格:500円(税込)

「ヴィッセルスマイル」の詳細

増川隆洋

Profile
増川隆洋(ますかわ・たかひろ)
191cmの長身で相手を圧倒する体格と、豊富な運動量を兼ね備えたセンターバック。名古屋では2010年のJ1優勝に貢献し、同年のベストイレブンにも選ばれた豊かな実績を持つ。高校時代以来、17年ぶりに地元・兵庫でプレーすることへの想いを胸に秘め、神戸に栄光をもたらす覚悟で挑む。
1979年11月8日生まれ、兵庫県姫路市出身、191cm/93kg